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ネットウォッチング

漫画、アニメ、ゲームの“児童ポルノ規制”は本当に見送り?

くすぶり続ける「表現規制」論議

渋井 哲也(2008-04-11 21:00)
児童ポルノ法改正問題について話し合うイベント=5月2日(撮影:渋井哲也)


 児童買春・児童ポルノ処罰法の改正問題で、自民党の「児童ポルノ禁止法見直しに関する小委員会」(森山真弓小委員長)は4月10日、漫画、アニメ、ゲームにおける‘実在しない児童’の性的な描写についての規制を見送ることで一致した。毎日新聞(毎日.jpは4月10日付、紙は11日付朝刊5ページ)が伝えた。

 その一方で、自民党は「児童ポルノ」(実在する18歳未満の男女を写したポルノ)を収集目的で所持する「単純所持」への罰則規定を加える方針を決めている。この問題では、公明党のプロジェクトチームも、今回の法改正では、表現の規制を盛り込まない方針を決めている。これで、表現規制問題は落ち着くのだろうか。

 日本は「児童ポルノ発信国」──。そう非難されたのは、スウェーデンのストックホルムで1996年に開かれた、「第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」の席上だった。

 こうした国際世論の流れに加え、当時、国内で援助交際(買売春を含む金銭授受を伴う交際)が社会問題化していたことへの対応で、自民、社民、さきがけの3党が議員立法で、1999年、児童買春・児童ポルノ処罰法を制定した。

 同法制定をめぐっては、当初から、規制対象の「児童ポルノ」のなかに、漫画、アニメ、ゲームなどの表現を含めるべきかどうかが議論されてきた。

 2001年に横浜で開かれた「第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」のなかに、「漫画はCSEC(児童の商業的性的搾取)ではない」というワークショップが開かれた。

 そのなかで、美学者で日本マンガ学会理事のジャクリーヌ・ベルントさんのほか、精神科医の斉藤環さん、社会学者の宮台真司さん、哲学者の東浩紀さんが表現規制の問題点を指摘した。その結果、全体宣言の「横浜グローバル・コミットメント2001」では「児童の性的搾取が許されてはならない」という方針を採択する一方、青少年の参加や教育、文化に関する「青少年アピール」では「文化的・政治的・経済的多様性」への考慮を求めた。

 たとえば、日本の漫画、アニメ、ゲームなどに登場する“成人キャラクター”について、海外の読者は、低年齢の子どもと受け取ってしまう傾向がある。国によって読まれ方が違う「多様性」への理解を求めた格好だ。

単純所持の違法化を明言する政治家たち

 そうした状況の中で、何度も法改正議論がなされるたびに、「単純所持」と「創作物の規制」の2点が主要な議論の中心だった。特に最近では、単純所持の違法化について明言する政治家が多くなっていた。

 たとえば鳩山邦夫法務大臣は2月5日の閣議後の記者会見で、こう述べている。

 「(児童ポルノは)麻薬と同じようなもので、単純所持を認めているとやはりそこから穴が広がっていって、結局その所持した物がインターネットに載るというようなことがあり得るのではないかと思います」

 また、野田聖子衆議院議員(自民)は、自身のメールマガジン「キャサリンつうしん 第91号」(2008年3月1日号)で、以下のように記し、「単純所持の禁止・罰則」の必要性を指摘している。

  「私たちの社会では大人による搾取の被害者となる子どもの数は増える一方です。しかも被害の実態は悪化の一途を辿っています。インターネットが広く世界を 包み込み、深くは各家庭に入り込んでいった結果、その負の遺産として、私たちは想像もつかない数の大人を中心とする人たちが、オンラインで児童ポルノを売買し、ばらまき、子どもの尊厳を際限なく侵害している現実を直視すべき」

児童ポルノ改正問題について、自民・公明の与党プロジェクトチームのメンバーになっている高市早苗衆院議員(撮影:渋井哲也)
 「自民党「有害ネット対策」 高市早苗議員に聞く」の取材の際に、高市議員は児童ポルノ問題について「(漫画、アニメ、ゲームの規制は) 無理でしょうね」と述べていた(テーマ外のため記事には未反映)。森山小委員長の下で事務局長を務める高市議員は記者団に、(漫画、アニメ、ゲームを対象 に含めなかったことは)「速やかに法改正の第1弾を行うための現実的判断だ」と述べた、と10日付毎日.jpは報じている。

 ただ、単純所持について懸念がないわけではない。捜査権の濫用を招くのではないか、といった声にどう答えるのか。構成要件をどのように明確化するのか課題は多い。

 国内で唯一、条例で「子どもポルノ」の単純所持を禁止している奈良県。条例の「子ども」の定義は13歳未満。「児童ポルノ」における児童(=18歳未満)とは定義が異なっている。また目的も、奈良県条例の場合は、「犯罪の未然防止」なのに対して、児童買春・児童ポルノ法の目的は「児童の権利擁護」。議論の土台や対象年齢が異なっている。

漫画やアニメ、ゲームの表現規制は別の枠組みに?

 一方、公明党も「児童買春・児童ポルノ禁止法見直しプロジェクトチーム」(座長・丸谷佳織衆議院議員)での議論で、「アニメや、成人女性が児童になりすます『みなしポルノ』などについても、現時点では処罰は難しい」(公明新聞、3月26日)として、現時点での「創作物」への規制はしないものの、因果関係を明確化するよう関連調査をすべき、としている。

 しかし、これで、毎日新聞の見出しにあるように「アニメ規制は見送り」となるのだろうか。

 たとえば、公明新聞(3月26日)によると、公明党のプロジェクトチームは「現状を改善する努力は必要として、これらが性犯罪に結び付くという因果関係を明確にする必要性を確認した」と述べている。

 同党は、性犯罪と創作物(アニメやみなしポルノ)との因果関係を把握するため、国の調査研究を求めており、今後の改正で、創作物規制の余地を残そうとしている。

 一方、高市議員は先日の筆者のインタビューに対し、「この法律(児童買春・児童ポルノ法)は、実在する子どもを権利侵害から守ることを想定しています。そのため、創作物の規制をするなら、別の法律の枠組みでしょうね」と話していた(テーマ外のため記事には未反映)。

 「別の法律の枠組み」というキーワードでわかるように、この自民党はこれまで何度も、表現規制の法案を考えてきた。

 たとえば、野田議員はこう述べている

 「児童ポルノ法や児童虐待防止法は現実の児童を対象にしたもので、アニメなどフィクションなものに対応するには、かなりの法改正が必要となり、時間がかかってしまう。個人的には、改正よりも、新法を立てるべきだと思う」

 (日本ユニセフ協会、ECPAT/ストップ子供買春の会、ECPAT スウェーデン、駐日スウェーデン大使館主催のシンポジウム「子どもポルノサイトの根絶に向けて〜スウェーデンのブロッキングの取り組みと日本の課題〜」での発言。参考:Internet Watchの記事)。

  また、2000年には、参議院自民党が中心となって「青少年環境対策基本法案」を準備したことがある。いわゆる青環法(あおかんほう)だ。青環対法(せい かんたいほう)とも呼ばれたりする。同法案については、報道関係者や漫画家、作家などが当時、表現の自由を脅かすなどとして反対を表明してきた。一方、民 主党も水島広子衆議院議員(当時)を中心に同様の法案を考えていた時期もあった。

 今後も与野党内には、表現を規制しようとする動きがくすぶり続けるのだろう。

日本ユニセフ協会が公式サイトで弁明

 「なくそう!子どもポルノ」キャンペーンをしている日本ユニセフ協会には、様々な意見が寄せられえている。その声に答えるように、公式サイトで「お問い合わせについて」と題して、以下のような見解を表明している。

  「性教育や性的虐待の事実を訴えるなど、『性目的』以外の目的で作成されたものは含まれません。また、性目的で描写した子どもポルノであっても、他人への 提供を目的としない製造(例:自分自身の楽しみのために紙やPC上で描く行為)の禁止までも求めるものではありません」

 「性目的で子ど もの性的虐待を描いたアニメ・漫画・ゲームソフトなども、『子どもの性的虐待』を社会的に容認することにつながるなどの理由から、その販売・提供・流布 を、すでに法律的に禁止または禁止する方向で法律の整備が進められています。私どもが把握する限り、少なくともスウェーデン、カナダ、米国(連邦法)が、 法律でこうした『子どもポルノ』を禁じています」

 懸念する声が大きい中で、「単純所持」の違法化や表現規制を求めるのはなぜか。G8の中で、単純所持を禁止していないのは日本とロシアだ、ということがよく指摘されている。単純所持を禁止していない日本では、児童ポルノをめぐる状況が悪化している、のだろうか。

 同協会の広報室長の中井裕真氏は、『マンガ論争勃発』の著者・昼間たかし氏のインタビューに以下のように答えている(引用:マンガ論争勃発サイト)。

 「少なくとも1999年の法律導入以降、全般に渡って進展があったことは評価されていると聞いています。横浜会議の開催も評価のひとつだと思っています。現状、我々も状況がよくなっていないとか、悪化しているとはいっておりません」

 現行法で不十分だから新法、というロジックではないことが、この発言からはわかる。では、なぜ、この時期に規制を強化しようとするのか。中井氏は同じく昼間氏のインタビューで、こう答える。

  「2007年には2つの大きなアクションがありました。ひとつは、G8の司法関係閣僚会議が5月にミュンヘンで行われた時にG8以外の国とも共に取り組ん でいくことを、閣僚宣言として発表した。もうひとつは欧州評議会でも欧州条約として『子供の性的搾取および性的虐待からの保護に関する条約』が成立したこ とが挙げられます」

 こうした世界的な流れと、「文化的・政治的・経済的多様性」をいかに考慮するのか、そのバランスが問われている。

【編集注】一部修正いたしました(08/04/13 10:55)



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