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ネットウォッチング

漫画やアニメゲームの表現は規制されるのか

児童買春・児童ポルノ法改正議論  

渋井 哲也(2008-03-13 17:46)


 漫画やアニメ、ゲームの表現が規制される!?──。

  児童買春・児童ポルノ処罰法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)の改正議論が再燃している。現在、自民党や公明党が プロジェクトチームで改正を検討し始めている。また、3月に入ってから、財団法人日本ユニセフ協会(東京都港区)がキャンペーンを始めている。

 同法は、1999年の制定当時から「児童ポルノ」に絵や漫画を含めるかどうか、また児童ポルノの単純所持について違法化するかどうかの議論がされてきた。今回の改正論議でも、この部分が議論の対象になると見られている。
 
日本ユニセフ協会が反「子どもポルノ」キャンペーン

「なくそう!子どもポルノキャンペーン」をしている日本ユニセフ協会のサイト
 日本ユニセフ協会の「なくそう!子どもポルノキャンペーン」は、ECPAT/ストップ子ども買春の会、CAPセンター・ジャパンなどの運動団体のほか、ヤフーやマイクロソフトといったインターネット事業者が賛同団体に含まれている。

 同キャンペーンが展開する「子どもポルノ問題に関する緊急請願」は、子どもに対する性的虐待を性目的で描写した写真、動画、漫画、アニメーションなどを製造、譲渡、貸与、広告・宣伝する行為に反対する立場から、政府・国会に対して、

1) 単純所持を禁止し処罰の対象にすること、
2) 被写体が実在するか否かを問わず、アニメ、漫画ゲームソフト、18歳以上の人物が児童を演じる児童の性的な姿態や虐待などを写実的に描写した「準児童ポルノ」として違法化すること

などを提案している。
 
 児童ポルノについて、現行法は、第2条で以下のように定義している。

1) 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの
2) 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの
3) 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの

 メディアとしては、写真やビデオテープを想定し、漫画やアニメ、ゲームソフトは対象外になっている。同法の制定当初、漫画やアニメ、 ゲームソフトについても対象に含めるかどうかは議論されたが、あくまで「実在する子どもの権利擁護」を想定しているので、空想上の産物を規制することは表 現の自由に抵触すると、ECPATジャパン関西(注、ECPATジャパンとは別団体)や作家たちが反対を表明してきた。
 
 また、所持については、第7条で、

児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
3 第一項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。
 
と定められ、頒布や販売、貸与、公然陳列を前提とした所持は禁止されている。1999年の制定当時から、目的に関係なく所持自体(単純所持)も禁止すべき との意見もあった。しかし、どうチェックするのか、チェックの際、国民のプライバシーを侵害しないのか、あるいは別件逮捕の口実となる懸念はないのか、な どの疑問があがった。また電子メールで送られてきた画像を放置していた場合や、サイト閲覧時に残ったキャッシュが「所持」にあたるのか、など解釈上の課題 もあった。
 
 各報道によると、法改正の動きは、自民党が法務部会内に「児童ポルノ禁止法見直しに関する小委員会」(森山真弓委員長)を新設、単純所持の禁止と罰則新設を前提に、議論を進めることにした。公明党もプロジェクトチームを設置して、見直し作業に入っている。

 また報道によると、シェーファー駐日米大使は3月11日、鳩山邦夫法務大臣に対して、「子どもを犠牲にする児童ポルノをなくすには、単純所持を禁止して市場にインパクトを与えるしかない」などと話した、という。
 
想像の産物を規制することへの懸念
 
 『恋愛ジャンキー』(秋田書店)や『Wネーム』(集英社)などの漫画家・葉月京さんは、自身も児童ポルノや虐待漫画には反対としながら、こう話す。

  「私自身はそうした漫画は吐き気がします。母親になってからは特に嫌です。けれども、私も設定は18歳以上ですが、ベビーフェイスで巨乳の登場人物を描く ことが多いです。ある人が見れば、児童ポルノ漫画に見えてしまうかもしれませんね。いったい誰がどのように判断するのでしょう」
 
 そして、表現の自由を守りつつ、その漫画などをどのように編集し、販売するかといった工夫は必要だ、と述べる。
 
 「小学生でしかヌケない人がいて、エロ漫画が役に立っている面もある。趣味を押さえ込むことはできないし、そういうものがあって、現実の小学生への性衝動を抑えられるかも。ただ、ゾーニングはある程度は仕方がないです。第一印象が強烈ですから」

 すなわち、カタルシス効果を含めて表現行為への規制に反対するが、ゾーニングには賛成との立場だ。
 
 漫画やアニメなどのクリエイターらでつくるネットワーク「連絡網 AMI」はこれまで、「実在する児童への権利侵害」があるポルノについては反対を表明する一方、漫画等の表現規制には反対の立場を取り続けてきた。葉月京さんも、百済内創という別のペンネームで一時、協力していた。
 
 1996年でストックホルムで開催された「子どもの性的商業的搾取に反対する世界会議」で、日本は「児童ポルノ」発信国として批判された。その後、99 年に現行法が制定、児童ポルノが規制されるようになってきた。2001年12月、横浜で開かれた第2回の同世界会議(共催:日本政府、ユニセフ、 ECPATら)では、AMIは、「漫画はCSCE(子どもの性的商業的搾取)ではない」と主張した。この結果、日本の漫画事情が考慮され、会議の声明(青 少年アピール)には、「文化的多様性に考慮する」の一文が付け加えられた。

 今年の11月にはブラジルで同会議が開催される。

現実の犯罪と想像の描写との関係は?

 AMIの共同代表理事で、翻訳家の兼光ダニエル真さんは、個人のサイトで意見表明している。

 子どもの保護と性的虐待の防止には賛同しながらも、受け手が扇情的に受け止める要素があると認められれば、芸術作品や歴史的資料も対象になる危惧を表明し、「一律に所持も違法とするのは早計」とした。
 
 兼光さんによると、世界の児童虐待映像の監査団体の権威のひとつ、イギリスのインターネット監査財団(Internet Watch Foundation、IWF)による「児童ポルノの産出国データ」で、「違法児童虐待画像」を発信した全世界のサーバーのうち、日本に設置されている比 率は、2003〜06年、1度も10%を超えていないという。1996年から2005年までの10年累計では5%だった(米国設置は51%)。このため、

 「現状の単純規制を違法化しない児ポ法でもキチンと効果があり、児童ポルノが払拭されていないのは残念ですが、決して日本が増加傾向にない」

と兼光さんは指摘している。 

 兼光さんはさらに、2004年の国際ECPATの中間報告で、「1999年に於いて、日本は世界でもっとも多くの児童ポルノを産出する国の一つであった。しかしその後児童ポルノをめぐる法律が改定され、それ以降画像量は劇的に減少している」と指摘されていることをあげ、
 
 「猥褻(わいせつ)はアメリカでも違法ですが、過去アメリカの最高裁は何度も想像上の児童の性行為を取り扱った作品を一律に違法化することは表現の自由に反するとの判例を構築しています」

 「過去に米国最高裁判所は現実違法行為と、偶像創作物における犯罪行為の描写については、一律に取り扱ってはならぬ判例を繰り返し明確にしてきていることも私たちは忘れてはならない」
 
と、現実の犯罪と、表現行為を一緒に扱ってはいけない、と結論づける。
 
 現実の犯罪と表現行為に一線を引く議論には、異論もある。たとえば、日本ユニセフ協会はキャンペーンサイト内で、米国の刑務所内の入所者に関する調査 で、子どもポルノを受動的に視聴した人の76%が接触犯罪を犯していた、とのデータをあげ、創作物が実際の犯罪に結びつく可能性を示唆する。

 もっとも、同サイト内でも、「子どもポルノをオンラインで見るということと、(実際の子どもへの)接触犯罪を犯すということとの正確な関係ははっきりし ていません」との文言があり、子どもを性の対象にした漫画などの表現に接した人が、子どもを対象にした性犯罪を模倣することの関連性は科学的には証明され ていない。
 
表現規制側の打ち上げ花?
 
 同法の制定同時から出版業界の動向を取材してきたフリーライターの長岡義幸さんによると、制定当初には業界内も混乱し、『バカボンド』(講談社)の主人 公ムサシが17歳の時にセックスしたシーンが問題となり、同書が大手書店の店頭から一時は消えたという。現在は、業界内の動きとして、ネット書店が規制の 流れに乗りやすいとしながら、長岡さんは、
 
 「表現の自由に取り組んできた業界の中で、ネット書店が先走らないように働きかける動きがある。ゾーニングはやむを得ないが、本来は出版社や売る側の倫理の問題だ」
 
と指摘する。 そして、
 
 「国会論戦の流れを考えると、今回は、単純所持の禁止を優先し、規制される『児童ポルノ』に“絵”が入らないかもしれない。ただ、そうだとしても、漫画 を規制したい人たちからすれば、今回は、“打ち上げ花火”的な意味合いではないか。今回の法改正議論も有害図書規制の流れの一つで、これまで議論されてき た枠組みを使いながら、複合的な規制を考えているのではないか」
 
と述べる。今回の「児童ポルノ」に絵を含めるかどうかの議論は、漫画、アニメ、ゲームを規制する議論の第1歩に過ぎないのではないか、という見方だ。


■参考リンク
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(法務省)
日本ユニセフ協会「なくそう!子どもポルノキャンペーン」
兼光ダニエル真ログ帳 児童ポルノ法の危険な行方
Internet Watch Foundation(英語)
「第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」の概要と評価(外務省)


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